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ギャッベとは何か ― 遊牧民の暮らしから生まれた敷物
ひとことで言うと、ギャッベとは、イラン南部・ザグロス山脈の麓で暮らす遊牧民、カシュガイ族が織るじゅうたんです。「カシュガイ族が織ったもの」であることが、実はとても重要なポイントです。似たような素朴な風合いのじゅうたんは他の部族にもありますが、それらとギャッベは区別されます。大きな分類で言えば、ギャッベは「トライバルラグ(部族絨毯)」というカテゴリーに属する、その代表格のひとつです。
もともとギャッベは、遊牧民が自分たちの暮らしのために織っていた、いわば生活道具でした。それが商品として世界に知られるようになったのは、1970年頃のことです。あるカシュガイ族の絨毯商が、自分たちのじゅうたんをヨーロッパに紹介したのが始まりとされています。
当時、絨毯の世界の主役は、緻密な文様と煌びやかな色使いを誇るペルシャ絨毯でした。それと比べると、素朴で自由なギャッベは、正直なところ「価値のないもの」として扱われていたそうです。けれど時代が進むにつれて、世界中の人々が、そのプリミティブなデザイン性や、草木染めが生む色の深みに、新しい価値を見出していきました。「今の暮らしにこそ、シンプルでモダンなギャッベが似合う」――そう考える人が、少しずつ増えていったのです。
自給自足の暮らしを送っていた遊牧民が、自分たちの道具を、世界中の人に届く”作品”に変えたこと。そして、私たちユーザー側の美意識も、「絨毯といえばペルシャ絨毯」という価値観から、「自分が好きなものと暮らす」という感覚へと変わっていったこと。ギャッベは、その両方の変化を体現している存在なのです。
一枚として同じものがない理由 ― 手仕事が生む表情と色柄
「手作りだから、同じものがない」――これは半分正しくて、半分は雑な説明です。手作りでも、同じ形を目指して揃えることはできます。5客セットの器も、揃いの柄の着物も、職人の手仕事です。
ギャッベが違うのは、そもそも「商品として決まった型を再現する」という発想自体が、遊牧民の文化にはなかったという点です。織り手は、注文書や見本を見ながら織るのではなく、そのときの気持ちのままに、自由に図案を選び、色を選びます。だから、同じ部族の、同じような図案でも、まったく同じものにはならない。これは今のギャッベでも変わりません。よく似た一枚が並んでいても、よく見ると色の配分や、モチーフの位置が少しずつ違います。
絨毯屋さんの決まり文句に、「人間は神様じゃないから、完璧はありえない。その謙虚な気持ちが絨毯にも表れている」というものがあります。正直に言うと、これはかなりセールストークだと思っています。実際の織り手は、もっと人間らしい葛藤を抱えているはずです。きれいに、上手に織りたい。自分の作品を褒められたい、自慢したい。そういう欲望と、遊牧の暮らしの中での限られた時間や道具、気分――そのせめぎ合いが、そのまま織り目の表情になって現れます。
つまりギャッベの「同じものがない」は、単なる技術的な不揃いではなく、ひとりの織り手の、その日の心の動きまでが編み込まれた、とても繊細でパーソナルな記録なのです。
一期一会の出会い
一枚として同じものがないギャッベは、お客様との出会いもまた一期一会だと感じます。同じ一枚を前にしても、感じ方は人それぞれ。「このお客様には、お部屋に迎えたあとの暮らしが、もう見えているんだろうな」と思う瞬間が、何度もありました。私たちは、そんな素敵な一枚との出会いのお手伝いを、これからも続けていきたいと思っています。
どうやって作られている? ― 21世紀のギャッベづくり
遊牧民の生活道具といっても、今のギャッベは輸出用に作られていますし、完成までには驚くほど多くの人が関わっています。それでも、根っこにあるのは変わらない手仕事です。簡単な流れをご紹介します。
- 刈り取り・仕分け・洗浄 ― 羊の毛を刈り取り、色ごとに仕分けて洗います。
- 手紡ぎ ― 駒を回しながら羊毛をねじり、毛糸に紡いでいきます。正直に言うと、この手紡ぎの工程は、織る作業よりも時間がかかります。
- 染色 ― 業者が毛糸を集め、大きな設備でまとめて染めます。草木染めの色のレシピは、業者ごとの門外不出の秘密なのだそうです。
- 発注 ― 契約している織り手の家庭へ、染め上がった毛糸と、織ってほしいデザイン、サイズの希望が渡されます。
- 織り ― 各家庭の軒先で、家族が力を合わせてギャッベを織り上げます。
- 仕上げの水洗い ― 織り上がったばかりのギャッベは、まだ完成ではありません。業者の工房に集められ、何度も丁寧に水洗いされます。
- シャーリング・縁の始末 ― 表面を刈り揃えるシャーリングを行い、上下左右を丁寧に巻き込んで、ようやく完成です。
こうして見てみると、1枚のギャッベができあがるまでに、本当にたくさんの人の手が関わっていることがわかります。「ギャッベの工場」という言い方をされることもありますが、これは正確ではありません。実際には、各家庭で営まれる内職のような手仕事と、染色や仕上げを担う技術者集団のアトリエでの職人技――そのふたつが組み合わさって、1枚のギャッベは生まれているのです。
詳しい工程は、実際にカシュカイ族の村や工房を訪ねた現地取材の記録「ギャッベのお話」全6話でご紹介しています。
また、織りの細かさによって生まれるグレードの違いについては、こちらでも詳しく解説しています。
25年、4万枚のギャッベと向き合ってきました
当店では、入荷したギャッベに一枚ずつ通し番号をつけていて、2023年、その番号がついに4万を超えました(4万枚突破の記念記事はこちら)。最初の1枚は2004年、まだシンプルな無地に近いものでした。それから25年近く、色柄も表情も驚くほど多彩になり、二枚と同じものがないことを、日々あらためて実感しています。
21世紀も4分の1が過ぎ、手織りラグを取り巻く環境も変わりました。大量生産によるコピー品が、ギャッベの風合いを再現しようとする動きもあります。けれど、それはギャッベではありません。一過性のブームで終わらせるのではなく、数千年にわたる人類の文化が今に受け継がれている、その貴重な一枚一枚に、これからも丁寧に向き合っていきたいと思っています。
ギャッベを知ったら、次に気になること
ギャッベの魅力や作り方を知っていただいたところで、次に気になりそうなポイントをまとめました。

ガラタバザールのギャッベについて、セレクトのポイントをご紹介



